体験談

「好きなことはなんですか?」

「好きなことはなんですか?」
被写体: はっさく

幼い頃から趣味も特技もなかった僕は、この質問に上手く答えられなかった。胸を張って答えられるようになったのは、中学校に進学してからのことだ。柔道である。中学進学と同時に柔道を始めるや否や、そのとりこになった。たった数分間の試合の中で、自分の得意技が完璧に決まり相手を豪快に投げ飛ばしたときの爽快感は、無類のものである。当時は四六時中柔道のことばかり考えていた。部活漬けの三年間だった。

とはいえ、人並みに恋もした。部活の引退後、あるクラスメートに好意を抱いた。ただ、その相手は同性だった。どうやら自分は男が好きらしい。そんな思いが確信に変わる中で、僕は一つの疑念を振り払えずにいた。自分は柔道が好きなのではなく、柔道を通して男と組み合っているのが好きなのではないか、ということだ。あまりにも残酷な問いだった。認めてしまえば自分が気持ちの悪い怪物になってしまうような気がして、否定しようと躍起になった。しかし、躍起になればなるほどこの疑念は頭にこびりついて離れなかった。「ホモが柔道をするなんて、男目当てに決まっている。」「先輩や顧問の先生に抱いていた感情は、尊敬ではなくて恋愛感情に違いない。」このように、己の中にあるホモフォビア(同性愛嫌悪)に大いに苦しめられた。

この疑念がホモフォビアに基づく偏見に過ぎないことを知ったのは、高校に入ってからのことだ。 悩みながらも柔道を続けた高校で、体格などの変化により自分の柔道のスタイルを変えてみたところ思いの外うまくいき、試合で少し勝てるようになったのだ。中学時代に歯が立たなかった先輩や同年代の選手とも戦えるようになっていた。最も記憶に残っているのが、新人戦の県大会準々決勝である。相手は明らかに格上、県下でも有数の強豪校に所属し、その中でもエースと呼ばれるような超優秀な選手だ。挑戦者として失うものもなく戦った僕は、もちろん一本負けを喫するものの(笑)、試合時間残り数十秒というところまでポイント数でも互角の健闘をした。この試合は無性に楽しく、僕に柔道の楽しさというものを思い出させてくれた。そのおかげで、自分は本当に好きで柔道をやっているのだと確信できた。性的指向が男性である男性として生まれただけで、コンタクトスポーツをやっていけない理由など何もない。こんな当たり前のことに気が付いた。

ただ、中学生の僕が悩み苦しんだ理由も理解できる。ロールモデルがいないのだ。今でこそ日本でもカミングアウトをする芸能人などが増えつつあるが、当時は有名人のカミングアウトと言えば海の向こうのこと、というイメージが強かった。このためにセクシュアルマイノリティ当事者は、同じ当事者が活躍する姿をイメージしにくく、外部からの偏見だけでなく、内側からささやきかけるフォビアの声を振り払うことができない。こうして自分で自分を苦しめてしまうことになるのである。だからこそ僕は、自分にできる範囲で、カミングアウトをしていきたい。性的指向や性自認について悩む当事者が決して自分で自分を苦しめることのないよう、手を差し伸べていきたい。そのために僕が胸を張って答えられるようになるべき次の質問がこれだ。

「好きな人は誰ですか?」

About the author

はっさく

はっさく

ラーメンに目がない大学1年生。文章を書いたり読んだりすることが好きです。セクシュアリティはゲイです。 (2016年度)

Add Comment

コメントを残す

2017年3月
« 1月    
 1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031